僕を止めてください 【小説】




「裕君! 今、君どうなってるの? 小さい裕はなにを叫んでるの?」

 頭の中の叫び声で寺岡さんの声もなにを言っているのか半分わからずに、僕は後の半分で気がおかしくなっていた。正確にはおかしいのは小さい裕だったが、それを聞いている僕にもその狂気に侵されていた。叫び続けている裕の声を聞きながら、その狂気に耐えられそうにない自分がいた。見ればこれが終わるのか? アレを見ればいいのか、あれを、あれ…あれあのあのときみたあのあれをあの時みたいに見ればいいのかそれで裕はいいのか

「寺岡さんごめんなさいやっぱりあれ出して下さい。あれを見れば終わります。あの画像見せてあげて…裕が見たいって裕が見ないと僕を許してくれない。帰れないって最後まで帰れないって迷子のままだって!」

 僕は寺岡さんのシャツを下から掴み、うわ言のように懇願した。

「裕君…見たいって小さい裕が言うのか?」
「早く…早く見せて下さい…待ってくれないんですよ裕が。早く早くってずっと叫んでるんです頭の中で叫んでて気が狂いそうなんです早く見せろ見せろ見せろ見せろ見せろ見せろ見せろ見せろ見せろおおおおおおって!!!」
「裕!」
「寺岡さん!! ごめんなさい早く画像出してぇぇぇ!!」

 僕が叫ぶと寺岡さんはすぐさまテーブルの端にあったタブレットを掴み取り、僕の前のテーブルに置き、電源を入れた。僕はソファを蹴って身体をよじり、飛びつくようにテーブルの上を覗きこんだ。ソファから互いの身体が滑り落ち、僕と寺岡さんはもつれ合いながらカーペットに座り込んだ。この前と変わらない青空の壁紙の上に、あのとき開いたファイルのアイコンがすぐに画面に浮かんだ。寺岡さんは急いでそれをタップした。画面が開いたその瞬間、小さい裕が懐かしそうに呼んだ。

(あ! お父さんだ!)