「てら…おか…さん……小さい裕が…言うこと…聞か…ない」
「小さい裕は何て言ってるの? もしかして…あれを見たいの?」
「やめて!! あれはダメなんだ!! なんでわからない! なにが…なにがあるんだ! 裕の見たいものなんてなにもない! あの画像にはなにもないんだよ!!」
その時寺岡さんの顔が一瞬凍った。そして小さな声で呟いた。
「…まさ…か」
「えっ…」
「君…お父さんは…お父さんは……どうなったの?」
脈絡のない質問を寺岡さんが表情のない凍りついた顔で僕に問いただした。なぜそこで父の話を出す? 父は、同じ日に僕の出生届と妻の死亡届を市役所に出した。そして…
そして?
それから? それから? 一年後になにか…が。僕は除籍謄本の記載を頭の中で辿った。そして、僕の父は…一年後の…僕の誕生日に…死んだ…
「あっ」
それを頭の中で言いながら、ある考えがよぎった瞬間、僕も凍りついた。妻の一周忌の次の日、息子の1歳の誕生日、幼い僕を抱いた父親…
「僕の…誕生日が…父の死亡年月日…前の日が…母の…命日…」
人は、ちょうど自分の息子の誕生日に、無作為に偶然に死ねるだろうか?
「1歳の誕生日が…ほんとの父の死亡年月日です…」
「それって、裕君、それって」
「そんな…嘘…だ」
(なに、してるの?)
その時頭の中で、再び小さい裕が僕にねだる声がした。だがその声は地の底から響いてくるようなゾッとする音をしていた。
(早く見せてよ…早く見せてよ…なんで僕に見せてくれないの? 早く…早く…見たいよ…見たいよ、見たい見たい見せて見せて見せて見せて見せて見せて見せて見せて見せて!見せて!見せて!見せて!!見せて!!見せて!!見せて!!!)
「やめろおおおおおおおお!!!!」
「裕君!!」
僕は耳をふさいだ。それは気が狂っているとしか言いようのない叫びだった。狂気が頭の中で大音量でこだましていた。耳をふさいでもそれは頭の中で響いているのだから遮断しようがなかった。
「わかった!!わかった!!わかった!! 裕! 裕! 裕! 見るから!! 見るから!! だから叫ばないで!! 叫ばないで!! 黙って!! もう黙って!! もう黙ってえええ!!」
そのとき寺岡さんが僕の両肩を両手で掴んだ。



