「こんなになる前に…どうにかしてあげたかった」
「こんな…?」
「わからない…だろうね」
「ええ…」
「抱くよ…君のこと」
「なぜ…ですか?」
「気持よくしてあげたい…それだけ」
「あのとき…ダメだったのに?」
「大丈夫…今回は君の恋人を連れてこれる。イケるよ…何度も」
それはもしや…佳彦が送ってきたあのタブレットの中の画像のことではないのか? それに気がついた僕は、寺岡さんの身体の下から逃れようと身体をねじった。
「やっ…やめてください…それはだめ!」
「君が元の世界に戻れなくなるから?」
「ええ! そうです! そうに決まってる!」
「いいの? それで君。もう逃げないって言ったでしょ。いつだってどこだって追っかけてくるよ…だったら気持ちよくなることだけ考えればいい…気持ちよくなることが今は必要なんだから」
僕の耳元で寺岡さんが囁いた。すると僕の頭の中で声がした。
(うん。見たい)
小さい裕が返事をした。僕は混乱した。なぜ寺岡さんが小さい裕と話せるんだ?
「だっ…ダメだよ裕…見ちゃダメだ…きっと裕は苦しむよ」
僕は必死で裕を説得しに掛かった。寺岡さんは畳み掛けてきた。
「なにか言ったんだね…小さい裕は」
「ダメだ! そんなことさせない! なにも言ってない! 裕はなにも言ってない!!」
(見せてよ…ぼく…見たいよ)
なぜここでそんなこと望むんだ? 僕は小さい裕の言っている意味が理解できなかった。
「なに言ってるんだ…これは戸籍とは違うんだ! 裕、ダメだよ! なにもホントのことなんか書いてない!」
(見たらわかるよ。見せて。なんで見せてくれないの?)
「ダメっ!! 戻れなくなる! 戻れなくなるんだ! 裕はまた迷子になりたいのか!」
僕は必死で小さい裕を止めた。だが裕は全くそれを聞かなかった。
(迷子だよ…まだ帰ってないよ…まだ最後まで帰ってないよ…それ見なきゃ…帰れないよ!)
それを聞いて僕は愕然とした。そこに…なにがあるん…だ…?
僕の思いとは逆に、小さい裕は恐ろしいほど執拗だった。意味がわからないまま、僕は敵であるはずの寺岡さんに救いを求めていた。錯乱していた。



