僕を止めてください 【小説】





「屍体から生まれた屍体…って…どういうこと?」
「そのまんまです」
「まさか…お母さんは君が生まれた時にもう亡くなってた…とか?」

 寺岡さんは目を膝に落としてニコリともせずに呟いた。

「ええ。僕の生年月日より、母の死亡年月日のほうが…1日早かったんです。僕も最初は気づかなかった。でもよく見たら…変だなって…戸籍係か…届け出た父が間違えたのかなって…でも…僕の中で小さい裕が…屍体から生まれたんだ…僕…って…」
「小さい裕…?」
「いるんです。最初の今の戸籍が特別養子縁組だってわかってから…僕の中にいる…まだ小さいんです。僕が話を聞いて言うこと聞いてあげないと…可哀想で」
「ああ…そうか…そんな…」

 寺岡さんの言葉が途中で途切れた。

「小さい裕はホントのことが知りたいんです。どんなことでも書いてあることを見たいんだって…それが見れないことだけが嫌だって…だから僕は今の戸籍に残ってた前の戸籍の住所に行って…除籍謄本っていうの取ったんです。どんなこと書いてあるか賭けだったんですが…でも僕は恵まれてた。片方の親しかわからないこともあるって、同じことした人がインターネットの質問箱で答えてた…でも僕のは…両親も…今の父がどういう人かも…わかったから…ラッキーです。小さい裕も納得してた…」

 寺岡さんは首を小さく横に振った。何かを払うように。

「ねぇ…小さい裕君は…まだ居るの?」
「います。でも戸籍のこと以外はあまり…」
「…遅かった…か…」
「なにがですか」

 遅いとはなんのことだろう。

「君は切り離すのが得意だな…嗅覚…味覚…生きてる感覚…生きてる世界…切り離して切り離して…君は…君の一部さえも…切り離して…いや…君が最初に…世界から切り離されてた…のか…」

 ハァッと大きなため息を吐いて、寺岡さんは顔を両手で覆った。