僕を止めてください 【小説】




「やっぱり…そうなんだね…お母さん」

 寺岡さんは優しい口調に戻っていた。僕の完敗だった。

「……寺岡さん…ずるいよ」
「頑張ったほうだと思うよ。私相手にね」
「…言うんですか? 母に」
「言わないさ」
「なんで…これを言わせたいの? 僕に」
「平気じゃないでしょ…全然。君、心が折れてるから…悲しいくらい」
「そんなこと、わからないです。自分で」
「そういうもんだって。わからないから引き篭もったんだし。小島パパは君のことになるとテレパシーが利くみたいだ。親子だね」

 言ってしまったその後は、突っ張っていた支柱が折れたみたいに、出生のことを僕の中で留めておくエネルギーが霧散していくようだった。その中から、なにもかも全部言ってしまいたいという投げやりな願いが徐々に姿を表していくのがわかった。これで隆に筒抜けだ…嫌なんだそれが。

「全部言ったら…隆に言うでしょ、寺岡さん」
「言ってほしくなければ言わないよ」
「言わないで下さい。心配するから」
「もう遅いけどね。心配してるもん。君が…言ってしまうのが怖いんだね」

 また図星だった。もう嫌だ。

「言ったら…隆が僕のこと…僕のこと…」

 涙が出そうになるのを堪えていた。一番聞いて欲しいのは誰か…自分でわかってる。

「また…君は大人に気ぃ遣いすぎるんだ」
「皆んな大人じゃない」
「…まぁ…言えてるけど…そうだね。流石に君と無理心中しようなんてヤツを信用はできないか」
「できません」
「じゃあ、せめて私に言いなよ。聞きたいし。小島君には言わないから」
「それも信用できませんが」
「…言わないよ。私からなんて連絡できない」
「また訊いてくる、小島さん…寺岡さんに」
「言わないよ。策士は重要なところは口は固いんだ。私も今は言わないほうがいいと思う。小島君のためじゃない。君のために」
「どうしたら…いいか…わかんないですよ」
「後先考えずにやれよ、いまはさ。きみ、このままじゃ後が持たないよ。電話じゃなんだからさ、会って話そう。うちにおいで。今から」
「え…今から?」
「明日じゃダメだな。今からがいい。おいでよ」
「え…あ…」

 寺岡さんの急な提案に僕は意表を突かれ、言葉を失った。だが寺岡さんはそんな僕を気にもせず、全然別のことを尋ねてきた。