「私が変なこと言ったからか?」
「変?」
寺岡さんがなんか言ったっけ? と僕は記憶を辿った。最期の電話はいつだったっけ…あまり記憶になかった。
「なんか仰いましたっけ?」
「首吊り」
ああ。そうだった。遠い過去のようだ。
「そうでした」
「君、なにか知ったね?」
なんでそこまでわかるんだろうと、僕は少し驚いた。
「いえ、別に」
僕は寺岡さんに特に言うことはない。
「いや、戸籍…見に行ったんだろ」
そう言われて、僕は不覚にも数秒間絶句してしまっていた。
「…図星か」
寺岡さんに言われ、僕はシラを切ることにした。もう、騒音はお断りだ。
「見ましたよ。よくわかりましたね。でも何にもなかったんで。バカバカしいなって。450円損しました」
「へぇ…ウソつくんだ君って」
「別に…」
「うんうん、いいよ。閉じたんだね。そりゃ…そうだ。そんなこと知ったら、それで精一杯だ」
「嘘なんかついてませんよ」
「だっからぁ。私はウソはわかるんだって。松田氏に会った時の話、したでしょ」
「まぁ、どっちでもいいですが。じゃあ、これで。小島さんによろしく言って下さい。仲良くしてくださいね。お願いします」
「おいおい強制終了かよ。待てって。裕君…」
「すみません。今日は電話ありがとうございました。失礼いたします」
「ええっ? ホントに切っちゃうの? ねぇ…」
僕は電話を切った。またこの国から連れだされるのは御免だ。ごめんね、寺岡さん。もう関わらないで下さい。お願いします…と僕は心の中で頭を下げた。しかし、母親とつながってるのは迷惑なことだ。隆の電話で、僕が直の携帯には出ないことをわかっても、母経由で強制的に僕を電話に出させることが出来る。こうやって思惑通りに人への経路を確保する。僕は寺岡さんの周到さに呆れた。僕は子機を持って居間に降りた。居間に入り、子機を充電台に置くと、母がキッチンから僕にご飯だと告げた。電話は鳴らなかった。



