僕を止めてください 【小説】





【夫】岡本 知行
平成**年一月拾六日午後三時三拾五分◯◯市×町で死亡。同月一月弐拾日親族岡本宏行届出除籍

 1月…16日…死…亡…届出…岡本…宏行…

 父は死んでいた…1月16日…僕の1歳の誕生日に…そしてそれを届けたのは、今の父親、宏行…

 僕は茫然としていた。何もかもがパズルに見えた。このたった2行に満たない記述の中に、決定的な情報がいくつも詰め込まれていた。そして少しして僕は基本的な事実に気づいた。岡本知行の長男、岡本裕…僕は…生まれた時から今まで苗字が変わっていない、ということに。自分が岡本であることがあまりにも当たり前過ぎて、そこに気づいてなかったのだ。つまり僕は養子に行ってなおかつ、姓が変わっていない。

 ということは…?

 そしてもう一度目を皿のようにしてそこの記載を読んだ僕は、届け出岡本宏行の前に、“親族”という文字があることに気がついた。あっ…と僕はもう一度戸籍の文字を見比べた。動転していて気づかなかったことは、ちょっと見にも誰でもわかるバカバカしいほどわかりやすい符号だった。

 岡本宏行。
 岡本知行。

 同じ名字、一文字しか違わないこの二人の氏名。親族でなおかつこんなことは、親子か兄弟以外ない。
 なぜか背筋からぞぞぞと鳥肌の立つ感覚が沸き起こってきていた。それは未だかつて感じたことのない、嫌な感情だった。

 その感覚を追うように僕は猛然と母親の記載を読み始めていた。このパズルの鍵が、そこにあるような気がしてならなかった。父親と同じ順番で生年月日、出生地、入籍…そして……記述は父と同じくまだ続いていた。それは除籍になる理由の記載、その最後の行を僕は必死に目で追った。めまいがしてきそうだった。

【妻】裕美子
平成**年一月拾五日午後二拾三時拾一分◯◯市△町で死亡。同月一月拾七日親族岡本知行届出除籍

 母の死が、そこに記されていた。