僕を止めてください 【小説】




 遅い梅雨が始まり、僕は除籍謄本の前に、7月頭の期末テストの勉強をしなければならなかった。進学校だけあり、テストのレベルの高さを、初めての中間テストで嫌というほど僕は思い知らされた。この集中力でどんな結果が出るのか、僕は途方に暮れた。授業中も自習中も、いつの間にか違うことをボーッと考えている自分がいた。結局気になることを片付けないと、この白昼夢のような上の空は解消されない気がした。小さい裕も、毎日僕に“まだ? いつ行くの? 行かないの?”と不安そうに聞くので、可哀想になってきた。

 **県は僕の住んでいる自治体の隣の県だ。**市は都心から近いし、大きな都市なので人口も多い。電車のダイヤも多く、放課後でもなんとか市役所の閉まる5時前には着くだろう。地図と路線図で確かめると、市役所のある駅には快速急行が停まる。市役所のホームページを調べてみると、そこの市役所は土曜日は特別に窓口サービスを行っていて休みではなく、戸籍の証明も出してくれるようだった。他の市の市役所はサービスはあるものの、戸籍まで扱っているところと無いところがあり、この状況はラッキーだと思った。高校の土曜の授業は午前中までなので、今週の土曜日に行ってしまおうと決めた。行け、と言われている気すらした。期末まであと10日。土曜からは1週間。ギリギリのスケジュールではあったが。

 厚い雲と少し蒸し暑い陽気の土曜日、初めて半袖にネクタイだけで登校した。午前で授業が終わり、下校してそのまま駅から**市に向かった。電車は冷房が入っていて冷えていた。でもそれくらいが僕にはちょうど良かった。席に座れたので、寝ないように教科書を開いていたが、全く頭には入っていなかった。考えていたのは、『見たくない事実も明らかになったりするので、覚悟は決めておいたほうがいい』という、質問箱の回答に書かれていた忠告だった。僕にとって見たくない事実とはなんなんだろうか? それを判断するのは、僕ではなく、小さな裕なのだろう。僕は小さい裕に話しかけた。

(アドバイス、見たでしょ?)
(うん。見たよ)
(こんなこと知りたくなかった、って思うことあるかな)
(ない。ないけど…)
(ないけど?)
(書いてあるものが見れなかったら…イヤだ)
(そうか。なにが書いてあっても、見れたら良いんだね)
(うん。わかったらそれでいいよ)

 ただ、知りたい。本当にそれだけなんだろうな、とそれを聞いて僕は思った。それならいい。もう僕はそれを心配しない。ターミナル駅が近づいてきた。僕は席を立った。