「あなたに絞め落とされて、初めて死ぬのは気持ちいいかも知れないって思いました」
「え…そうなの?」
「はい。もっと前から死ぬことに憧れていてもおかしくなかったはずなのに」
「うーん…」
彼は唸った。信号が赤になり、車がゆっくり停止する。彼がその隙に僕の顔を横目で見た。
「なんでこんな話してるんだろ。君って…変だね。変わってるね。僕のことなんで責めたりしないの? 僕に犯されたんだよ? もっと悩まないの? 苦しまないの?」
「そのほうが、いいんですか? すみません」
「いや…さ…謝らないでよ…」
彼は頭をかきながら青信号を見て慌てて発車した。僕は自分が彼によって苦しんでいることを考えた。何か言ってあげたほうがいいのかと思った。今一番戸惑っていること、それは自分が生きているという例の“熱”についてだった。
「僕…写真集見てて、すごく興奮しちゃって。そしたら、興奮してる自分が、自分が生きていることが、すごく違和感あって…そのあとあなたに意識落とされて…その瞬間も僕は壊して欲しいって思っちゃって…でも僕はこうして生きているんですよね。それがなんか…苦しいなって…」
「そっちか…はぁ…」
彼はため息をついた。
「斜め上の回答ありがとうね。気持ちはちょっとわかるけど…僕は壊したい方だから、完全な共感は無理だよね…あとさ…」
彼はもう一度ため息をついた。そう言ってる間に彼のマンションに再び着いた。



