「そのあと彼、僕の顔を表情変えないでにっこり見た。バレないように“検索中”って感じだった。きっと私のこと、どこかで見覚えあるって思ったんだね。私が覚えてるくらいだから、そりゃ彼だって多少の見覚えくらいはあるだろうさ。それから、『どこかでお会いしましたか?』って案外直截に訊かれた。意外だったけどね。彼としてはヤバいところで会ったんなら私もお茶を濁すと踏んだんじゃないのかな。私もここで彼にそれ以上プレッシャー掛けるのはよろしくないと判断したんで、ええ、以前バーで一度だけ、って答えた。そしたら彼は『へぇ、そうですか。それとすみません、この本は図書館には無いですね』って教えてくれた。残念だ、見たかったのに…レアな本だって聞いたんですが、ああ、画像を2、3枚メールに添付して送ってくれますか? 写メで撮ってくれたので良いです。これ見ると発作起こす子がいてね。治療に使いたいんです。今、治療中なんですよ。あとね、障害出ていてね、その子、意識が飛んじゃうんですよね。薬物でも使ったんでしょうかね? って。まぁ、それが聞きたかったんだけどね。君の身体に変な薬物入れられてこんな身体になっちゃったのかなって、ちょっと疑ってたからさ」
「そんなこと…あるんですか?」
「うん。あるよ。可能性は充分。蔓延してるからね、この世界。みんな一発キメてヤってるよ。ルートなんかいくらでもある。私だって知ってる。しないけどね。だから出来る事ならそれを確認してから今日の対策立てたいなって思ってたからさ。クスリが関わると対応がいろいろややこしいから。小島君に聞いても、彼が使ってないって決定的な事実なんかわかんなかったし」
「でも、わかるんですか? それくらいで」
「嘘つきには嘘つきのやり方はよくわかる。あはは。人を騙してきた経験ってのも役に立つの。餌を投げて反応を見る。釣れても釣れなくてもデータにはなる。でもね、私が餌だの何だの投げても、彼は特にそこには反応がなかったんだよね。耳に入ってない、ってくらい自然に。だからそれはほぼ可能性がないって判断は出来た。でもね…」

 と、寺岡さんは僕から視線を外した。