「あの画像、どこから手に入れたって思った?」
「いえ…なんでこれがここにって…びっくりしましたが、どこからなんてもう考えてる余裕なくて…忘れてました」
「そっか。実はね、本人からもらっちゃった。見てみたかったんだよね、サイコパス。君の発作の直接の原因作った張本人だしね。フィールドワークは学問の基本だし。聞きたいこともあってさ。ほら、図書館に居るんだしさ、時間さえあればいつでも会えるじゃん。それに、殺人衝動のある知り合いなんていないしさ、会ってみたくなるでしょ。それにさ、どうせ私エイズもらって死ぬんだって思ってたし、やりたいことはやっておこうって思うでしょ?」
信じがたい話だった。寺岡さんが佳彦に会った…まるでフィクションみたいで現実感がまったくなかった。今ここで寺岡さんが“うそうそ、冗談だよ”と言い出してくれたほうが自然だった。呆然としてる僕に寺岡さんが怪訝そうな顔で尋ねた。
「あれ? それだけ? 他になんか感想無いの?」
「いえ…とても驚いてます。驚きすぎて…現実感無いです」
「私さ、ずっと前にあのバーでさ、顔見てたわ、松田君のこと」
「えっ」
「だってあそこで小島君とも会ったんだよ。小島君があそこ使ってたから、松田君もあそこに来てたんでしょ? どっちが最初か忘れたけど。だから顔合わせていてもおかしくはないんだ。まぁ、1、2回程度だとは思うけど。実際、図書館行ってみて遠目で見てわかったんだ。公務員似合ってたなぁ、表面だけ」
確かに考えてみれば、全員があのバーでつながってるんだから、会う可能性は無いわけじゃない。見物に行った寺岡さんの発想と行動力がすごいだけだ。いや、ただの自暴自棄の破壊力だったのかも知れない。
「図書の“お探しカード”っていうのがあるじゃない? あの図書館」
「あります。パソコン使えない人とか、パソコンでも検索できないとかの場合ですよね。手書きで題名とか著者とか書いてスタッフさんに渡す紙の」
「あれにね『Suicidium cadavere』って書いて、松田君に渡したの…あっははは!」
と、寺岡さんは久々に面白そうに笑った。自暴自棄でなくても、普段からいたずら好きだからなんだろうな、と僕はそれを聞いて推測した。楽しげに寺岡さんは話を続けた。
「それがさ、顔色ひとつ変えなかったの! すごいよぉ、松田君は。すごい。自分の動揺を見せない姿勢がホントに身についてるんだね。でも、私は彼の目が笑ってないことはちょっとわかっちゃった」
そう言った時には、寺岡さんの笑いは消えていた。



