「淋しい…」
寺岡さんの口から、ポツリとそんな言葉が漏れた。死の床に居る元恋人の話を聞いて、寺岡さんの死へのベクトルが強化されてる理由…というか、自暴自棄に拍車がかかった理由みたいなものがなんとなくわかった気がした。
「わかりました。そしたら、寺岡さんの人をたらしこむ才能で、小島さんの嫌悪感を払拭して下さいませんか? 小島さんも認めてましたよ、その能力」
あまりにも淋しい表情に、僕は取り敢えず僭越ながら策士に作戦を語った。寺岡さんは無表情のまま呟いた。
「裕君。ひどいな、君」
「事実です。ご自分で言ってましたよね、その才能。何か問題でも?」
「そうだねぇ。君は確かに優しくないねぇ。論理的に矛盾してないだけだねぇ」
「お分かりですか」
「うんうん。まったくだ」
「わかってもらえて良かったです。では死ぬ前に、死ぬ気でチャレンジして、玉砕したらエイズを選択肢に入れればよいのでは?」
「ああそれは…末期の彼が死ぬ前に間に合うかなぁ」
「期日を切ったほうが作戦は立てやすいですよ」
「…鬼畜」
「成功率を高める要因は利用しないと」
「君は、科学者向いてるよ、うん。法医学者か。悪くないね、君の合理性」
「そうですか。良かった。教育者から言われると自信につながります」
「君、案外タフだね」
「そうですね。死んでるからですかね。屍鬼は死んでるから強いんですよね」
「そんな君にも“自殺者”というアキレスの腱があったと」
「はぁ…意外でした」
寺岡さんの反撃に今度は僕がため息をついた。
「でも今日はスゴい収穫でした。ほんとにありがとうございます。寺岡さんの分析には凄まじい物を感じました。松田さんの呪いだけじゃなくて、自分の身体の問題なんて。自分で知らなかったことがこんなにあるって…」
「そうそう、その松田君に会ったよ」
佳彦に…会っ…た…?
寺岡さんは、再び予想だにしないような驚愕の事実を僕に告げた。



