僕を止めてください 【小説】




「裕君……君、スゴい解釈したね。私がここで小島君に抱かれて、君が初めて嫉妬して、君がほんとに小島君のことが好きだってわかって、めでたしめでたしだよね、それで君たちはようやく親子じゃなくて恋人として完成だよね…って」
「えっ…そっ…ち?」

 ちょっと待ってよ! と、あまり使わないセンテンスが僕の頭の中をよぎった。

「だって言ったでしょ、君は大人の事情なんか捨てて好きにしろって。私のことなんか気を遣ってないでさって…言ったのに…君はとんでもないこと言い出して…小島君泣かせただろ」

 僕が“大人=隆”のことだと思ってたのを、寺岡さんは、自分のことを言ってたんだと説明した。僕は唖然とした。

「寺岡さん…そんなこと…言ってたんですか?」
「だって、あの時私をとりなしたじゃん。小島君を怒らせないようにとかなんとか」
「もちろんです。だって小島さんは小島さんを愛する人に愛されて欲しいですから」
「でしょ? そんな大人の事情に付き合ってんじゃねーよ、って言ったの」
「それ、隆のこと言ってたんじゃないんですか?」
「違うよ! なにその誤解! 私のことなんかほっとけって言ったんだよ!」
「だって、あそこで小島さん、自分のこと言われたと思って激怒したじゃないですか!そしたら、そのまんま、って!」
「何言ってんの? 小島くんはさぁ“裕がせっかく寺岡のバカのこと気を遣ってんのに、その好意を無にするようなこと無神経に言いやがってこの野郎!”って怒ってたんじゃん! 君のことバカにされたって思ったんだよ! こっちは君らに気を遣ってんだよ。どうかしてんじゃねーの?」

 会話の解釈がここまで完璧にねじれてるとは思わなかった。僕は感情的なコミニュケーションのすれ違いっぷりに驚愕していた。