僕を止めてください 【小説】




「寺岡…お前…ここまで仕組んだのか?」

 隆が顔も見ずに寺岡さんに問いかけた。放心したまま寺岡さんが呟いた。

「完全にイレギュラー。こんなこと…誰が仕組めるよ? 陰謀ナメるなよ、バーカ」
「裕になに言った?」
「さあ。裕くんから聞けば?」
「陰険だな…そういう奴、吐き気するわ」
「吐きなよ。止めないから」
 
 どうでもいい寺岡さんは、自分で言い訳もしなかった。

「寺岡さん…策略なんかなかったです」
「丸め込まれただけだろ?」
「丸め込まれたらわかります。抵抗しないだけで。隆だって最初、詭弁みたいなこと言ってたじゃない? 全然続かなかったけど」

 それを聞いて寺岡さんが、力無くプッと噴いた。

「は…小島隆…詭弁…合わねー」
「うるせぇな」

 僕は投げやりな寺岡さんの名誉のために隆に言った。

「フェアだった。とてもフェアだったんだ。ホントなんだ。僕は助けられた。今日のことだって、僕のために考えてくれたんだ」
「お前を俺から引き離すためにか」
「そうだよぉ。可哀想だったんだもん。裕君。ゲイかどうかもわかんないのに、中学生で無理やり男達に輪姦されたあげく、拳で殴るようなドSに捕まっちゃってさ。望まないのに犯され続けて、挙句の果てに殺されかけて。よってたかって壊されて不自由な身体になっちゃって、そんな男を恨みもせずさ、その後も献身的に支えてあげて…なんなの?」
「お前に言われたかねーよ!」
「じゃあ、私だって小島君に陰険だなんて言われる筋合いないね。このヘタレ!」
「うるっせーんだよ! 殴るぞ!」
「まだ殴ってくれる気はあるんだ。嬉しいな。君から殴られ続けていっそのこと殺されたいよ」

 寺岡さんはなぜか隆を怒らせるようなことを言い続けた。