「よくわからないんです。でもたぶん…これが苦しいって気持ちなんだって、初めて思った…自分に出来ないことばっかりで…隆を幸せに出来ないことだけわかってるのが。こんなこと、感じたこと今までなかったけど。気持ちと言葉が、ようやくつながったみたいで」
「おまえ…そんなこと思ってたんだ」
「自分でも不思議でした。生きてる人のこと、こんなに考えてるのって今まで無かったから」
「俺は幸せだったんだ…ずっとな」
「いつから? 死のうと思ってたのに? 僕には見えなかったよ。今だって」
「それでも! それでも俺は幸せだったんだよ。死ぬ以外なんにも興味なかったお前が、いろいろあったけど、少しづつ変わっていって…他人がいること知って…自分の将来なんか考えるようになって…人のこと思いやるようになって…おまえがそうやって成長してくのが…愛おしくて…自分が苦しくたってなんだって…そういうお前を見てるのが…俺は幸せだったんだって…」
それから口を変なふうに曲げて、笑うのをこらえたようにこう言った。
「まいったな…これって…親の目線そのもんだな…これは恋人のセリフじゃねぇわ」
隆の目から涙が落ちた。泣き笑いながら僕を腕の中から解き、また僕の肩に両手をポンと置いた。
「わかってた…わかってたんだ…認めたくねぇだけで…ずっとわかってた…お前がそんなふうに俺のこと感じてるのをさ…」
「僕自身も…気づいてなかった」
「俺は親みたいな幸せを噛み締めてたんだな…勘違いもいいとこだ…いや…わかってた…恋人の幸せはどっかでもう諦めてたって」
「ごめん…なさい…」
「お前のせいじゃねぇよ。俺、お前のオヤジから養育費取りてぇわ。クソ」
隆は僕から手を離し、ぐったりとソファの座面に寄りかかった。ふと振り向くと、寺岡さんが放心状態で仰向けになったまま横たわっていた。



