「もう、大丈夫だよ…隆。僕はひとりで行けるから」

 不意に、僕の口からそんな言葉がこぼれた。これが答えなの? ねぇ、僕? これがいま、隆にそう、言うべきことなのか? 僕はそう言ってしまった後で自分自身に問いかけた。わかりきったことなのに、いざ言葉にすると、僕は強がってるみたいなことを口にしてた。でも本当のことは口に出来なかった。“僕は死神です”とは。

「愛されてよ。僕には出来ないこと…だから」
「裕…」
「あのね…僕は嫉妬するかどうかわからない。前に訊かれた、寺岡さんから。隆が他の人と寝たら嫉妬する? って」
「裕君、それは…」

 なにを言うかを察した寺岡さんが僕を止めに入った。でも僕はそれを振り切った。

「僕はわからないって答えた。そうなってみるまでわからないって。後悔するかもよ、って寺岡さんは忠告してくれた。でも僕は、わからないなら後悔する方を選ぶって答えた。だから、寺岡さんのこと抱いて下さい。僕の前で」
「お前…なに言ってるんだ?」
「僕は…僕は隆になにも返せない! だからそんなの…ダメだよ…僕じゃ…ダメ」
「俺を…俺から離れていくのか? 裕!」
「離れていくんじゃないよ…ずっと…離れたまんまだ」
「そんなこと…言うな!! 俺はそれでもいいって、それでいいって思ったんだ!」
「我慢できるまではね。そうも言ったよね…僕はリミットは超えた。それは認める。でもね…その後は? その後の後は? 僕は変わらない。変われないんだ!」
「じゃあ、今までの日々は何だったんだよ? 裕?」

 なんだったんだろう。いままでのこの日々は。そう言われたとたん、最初に会ってから今日までの隆との日々が、スライドのように頭の中に映しだされた。