寺岡さんは笑った。その声はとても乾いていた。こんなに愛されてるって、隆は知らなかったのかな。僕は寺岡さんが電話でいつも僕に訊くことを思い出していた。君はどう思ってるの? 小島君が好き? ねぇ、小島君のこと愛してる? ねぇ、裕君、ねぇ…

(私はね、小島君が大好きなんだ)

 いつから僕にそう言いたかったんだろう。僕が“わかりません”と言い続けている時も。寺岡さんは僕を憎んだんじゃないのかなと思った。愛してもいないのに一緒に居続けて、自分がどんな思いかもわからないまま、隆に抱かれて。本当に抱かれたい人を差し置いて、僕は贅沢な選択をし続けた。

 ずっと自分を試し続けている。廃墟で僕は考えた。その考えは変わらない。もう試すのは終わりでいいのかも知れない。どうやっても、なにをしても、なにもしなくても、僕はあなたを追い詰めるだろう。でももう、僕に執着する必要はないんだよ、あなたは。だってもうリミットは外れちゃったんだから。それが僕に出来たたったひとつの成果…

 お願い、隆。愛されてよ。

 僕は心の底からそう思った。僕は変われない。いつもそうだ。僕は変われない。変われないんだ。隆のこと、僕はきっと好きなんだろう。でもそれは人の言う“愛”や“恋”とはまったく違うものなんだと。そんな僕の無関心にあなたが再び心を病んでいく前に。

 隆…愛するのと同じくらい、愛されて。望んだものを、手に入れて。死んでも叶えようと思ったことでしょ? そんなの…僕にくれること、ないんだ、隆。だから…だから、そんなら今僕は、そう、なんと言えば、良いんだろうか? 僕はあなたになにを言えば…

 そんなこともうとっくに…決まっていた。