あーっと言いながら伸びをして、寺岡さんは隆の座ってるすぐ横に頭を向けてぐったりと横たわった。隆が僕の前からハッカの瓶をスッとつまみ上げた。元の席に戻ると、蓋を開けずに瓶をクンクン嗅いだ。

「うわー、もろメンソールだな。接骨院の匂い思い出すわ。こりゃエロくないわな」
「小島君、よく耐えたね」

 仰向けで寺岡さんが隆の顔を見上げた。

「ホントだぜ。キツかったぁ。でもまだ俺、勃ってるし」
「私もだよ。どうしてくれようとか思うよ」
「今日は裕には手出せねぇし…早く帰って抜くわ。クソ」
「しようか…小島君」

 まるで飲みにでも誘うかのように、寺岡さんは自然に、とても自然にそう言った。

「は…?」
「抱いてよ」
「はあ?」
「聞こえないかな。私としようって言ったの」

 隆はそれを聞いて一瞬絶句した。もちろん僕も。多少の沈黙の後、いきなり隆がバッと立ち上がって、そして叫んだ。

「おまっ…お前…なに言ってんだぁ!?」
「いいじゃん。皆んな欲情しきってるんだし…それとも私が裕君犯すの見てる?」
「ばかやろっ!! おっ俺がしないのに、お前がしていいわけないだろーが!!」
「独りで抜くのイヤだ…」
「お前は! 裕の前で言うかよ!?」
「裕君の前だから言うんだよ…ねぇ…裕君」

 呆然とそのやりとりを聞いていた僕に、いきなり寺岡さんが振ってきた。

「やきもち妬いてみない?」
「僕…ですか?」
「いまどうなの? 僕が小島君誘ってるの。裕君嫉妬しないの?」

 寺岡さんは起き上がると、にっこり笑って僕に訊いてきた。嫉妬…というのはどういう感情でしょうか? と訊こうとしたが、そんなこと説明できるわけないな、と思い、僕は訊くのをやめた。

「嫉妬と言われても分かりませんが…寺岡さん、本気なんですか?」
「うん。本気だよ」
「隆のこと好きなんですか?」
「うん。好きだよ」
「お前、適当なこと言ってんじゃねーよ!!」
「適当じゃない」

 いきなり寺岡さんの口調が変わった。もう寺岡さんは笑ってはいなかった。