「焦ってもしょうがない時もあるわ。俺も一山越えるのに掛かったしな」
「ちょっと独断専行しすぎたかな…でもそれもまぁ…プロセスってことでさ」

 寺岡さんが肩で息をしてる僕を後ろから覗きこんで言った。

「裕君、今日はここらへんでやめる?」
「どうでしょうか…やめて…成果…あります…?」
「うんうん、君、頑張ったから。少なくともいままでよりも自発的に対策しようって思えたでしょ?」
「はい…いろいろ…体質とか…わかったし…」
「やめようか、ね、小島君」
「ああ。いいんじゃね」
「裕君、どう?」
「寺岡さんの判断に…任せます」

 じゃあ、と言って寺岡さんは僕の前に置いてあるタブレットのページを閉じた。目の前から縊死の男が忽然と去り、待ち受け画面の青空の壁紙が清々しくそれに取って代わった。僕は残り火を消すべく、残りの保冷剤を全部トランクスの中に入れた。少し痛いほど冷えてきたが、これは画像のないいま、明らかに僕の熱を冷ましていた。耳の中の音がクリアになっていった。

「それ、案外効くみたいだね」
「ええ…目の前に画像がないとわりと」
「良かった。はい、じゃあこれも」

 寺岡さんは立ち上がってミントの瓶を取り、僕の前に置いた。ハッカと書いてあるが寺岡さんはミントと言うので、訊いてみた。