「匂いってすごいですね。僕、その歯磨き粉の件、これ嗅いでいるうちに細かいこと思い出してきました」
スーハーしながら僕がそう言うと、寺岡さんが両手を握ってガッツポーズを取った。
「イケる! イケるかも!」
そして両手の中には保冷剤の袋が握られていた。寺岡さんは保冷剤をテーブルの上にバラバラっと置いた。パックは4、5個はあった。
「じゃあ、そろそろ実験…いこうか? いける? 裕君?」
「ええ。いま、記憶とイメージが匂いに結びついてますから、嗅覚野がちゃんと働いてる気がします」
「そう! いいタイミングかもね。じゃあさ、小島君、心の準備はいい? 裕君がパニクっても平気で居られる? エロいことになっても理性飛ばさないでよね。いい? これは裕君が自分で制御できるかどうかの実験だからね。サポートは最低限、打ち合わせたでしょ? それと繰り返すけど、画像は見ちゃダメだからね」
「ああ、わかってるって。俺はお前のほうが心配だぞ。ドサクサに紛れて裕にエロいことしたらぶっ飛ばすからな!」
最後はマジな声になってた隆に、寺岡さんはびっくりしたように慌てて否定した。
「いや、ないってそれは! さすがにないよ小島くんの前でさ。心配しないでほしいなぁ、それ。心配なのは小島君だって。もしフラッシュバック来そうだったら、ここ入ると私の書斎だから、そこに自分を隔離してね。それからもっと向こうに座ってね」
寺岡さんはそのドアを開けた。部屋の3面が本棚で、奥に大きな木調のデスクと、高そうなリクライニングチェアが置いてあった。



