「ミント、なにに使うんだ? あいつ」
「話の経緯からすると、僕にミントを嗅がせながら画像を見せるのではないでしょうか?」
と、僕は隆の隣に座りながら答えた。
「え? なんで?」
「うーん…それは帰ってきたら寺岡さんに聞いてください。多分発作防止アイテムです」
「凄いな…君の興味の一貫性は。僅かな匂いの記憶すら冷却作用なんだもんなぁ。もうさ、短絡的にミントをアレに塗っちゃえばいいんじゃないの? 熱下がるよ?」
茶色い瓶を指で挟んで振りながら、いつの間にか寺岡さんが部屋に戻ってきていた。隆が寺岡さんに尋ねた。
「ミント、エロ発作止めるんか?」
「ミントにそういう効果があるかは知らないけど、この場合、そうなる可能性ありだ」
「お前は何に使ってたの?」
「クーラー病対策」
「なんで?」
「去年の猛暑で夏バテした時にゼミの教え子の女子がくれたの。風呂に入れるとスーッとして冷えるって」
「お前、女子にもてるのか。で、効果は?」
「寒いくらい冷える。出た直ぐはスースーしすぎて扇風機当たれない」
「へぇ。で、なんでそれで発作が止まる可能性があるんだよ」
「それはだね」
と、寺岡さんはようやくソファの元の席に座って、ミントの瓶を机の上に置いた。そこには“ハッカ油”とラベルに書いてあった。
「これは仮説なんだけどね、さっきオカルトな裕君の能力の話聞いたでしょ?」
「ああ、本人曰く“警察犬”な」
「その時に裕君は“匂い”って言ったの。でも、それは嗅覚で感じる匂いじゃないって。でも裕君は蕎麦屋でもわかったみたいに、嗅覚とか味覚とかの感覚意識が大変低いわけ。なのに想像の中のイメージは“匂い”という言葉で表現した。ここまでわかる?」
「ああ。とりあえずな」
「よろしい。でさ、共感覚や自閉傾向の人でね、やっぱりそういう風に偏りのある能力を持ってる人にあるのが、突出した才能を産んでる脳の機能が、他の機能を潰して発達してることがあるんだよね。つまり、例えるなら、パソコンでさ、飛び抜けた計算能力を出すために、本来セキュリティソフトに使うメモリを計算に使っちゃう、みたいなことしてるんだよ。裕君はもしかしたら嗅覚野をイメージの統合とかに使っちゃってるんで、本来の匂いを感じるっていう役目がおろそかになってる可能性があるってこと。ここまでわかった? 小島君」
「…なんとなく」
「裕君は?」
「だいたい」
「いいでしょう、いいでしょう! それにさ、このミントってのが一石二鳥なんだよね。熱を下げるからね。裕君の嫌いな熱をね」
それを聞いたとき、この寺岡さんの作戦はもしかして当たるんじゃないか、と僕は思った。



