僕を止めてください 【小説】




「あの…隆がトイレ行ってるうちに話しときたいんですが」
「あ、なに?」
「僕…一番そそる画像は…縊死です」
「そうなんだ。何でもいいって言ってたから、自殺ならOKって思ってた」
「小島さんの前だと言い出せなくって」
「あ…そうだよね。そりゃそうだ。ごめん。悪かったね、気を遣ったね、君」
「さすがにこれは…小島さんすごくまだ僕のことで罪悪感あるみたいですし。思い出すことはあまり言いたくはないんで…」
「それでいいと思うよ」

 寺岡さんは不意にため息をついた。なにか淋しそうな顔だなと思ったが、僕は黙っていた。

「君は…まだ彼のこと、好きか嫌いかわからないの?」

 ソファにもたれて、寺岡さんは天井を眺めながらそんなことを聞いた。

「ええ。嫌いではないです。でも…さっき寺岡さん言われましたよね、小島君の恋人って」
「言ったよ」
「相思相愛じゃない恋人はいるんでしょうか」
「いないよ」

 その言い方が思いもかけず鋭かったので、僕はハッとした。寺岡さんのいつもの言い方と違っていた。

「でも、そう言うしかないでしょ…裕君……あのさ…」
「なんでしょう…」
「…いや、いいや。それは小島君の問題だもんな。君の問題は…そう、いまから解決しなきゃならない、アレだよね」

 言い方は元に戻っていたが、なにか寺岡さんの雰囲気が少し変わった。

「まっ、どうにかなるでしょ」

 そう言って立ち上がると、寺岡さんはシャツの上から茶色のジャケットを着て、出かける準備をした。

「仕方ないから、小島君におごらせるか!」

 そう言った寺岡さんは、もう元の茶目っ気のある人に戻っていた。隆がトイレから戻ってきて、3人で昼食を摂りに僕達はマンションから出た。日差しが夏に近くなっていた。