僕を止めてください 【小説】




「減ったわ。飯にすっか」
「もう12時でしょ。近所の店で簡単に食べてこない? 美味しい蕎麦屋があるんだけどさ」
「なんか丼モンあるならそこでいい」
「ああ、定食はあるよ。小島君2人前食べれば?」
「そうするわ。今日は俺のおごりでいいぞ」
「えっ? なにそれ。私が言おうと思ったのに!」
「だって今日、実質働いてるのお前だろ? 俺、チャチャ入れてるだけで貢献度低すぎるわ」

 結構細かいとこ気にしてるんだなと思った。寺岡さんがにっこり微笑みながら言った。

「居るだけでいいの! そういう男でしょ、小島君はさぁ。私が年長だし、余裕の高給取りだしぃ」
「いつも年長って言うけど、寺岡、いくつなの? 俺より年上らしいけど。聞いたことなかったな」
「34」
「えっ…」
「案外お兄さんだろ、私の方が。小島君は見た目よりお若いらしいけど。30になったの? まだなの?」
「ゴメン。タメ口叩いてた」

 ちょっとびっくりしたみたいに、隆の目が丸くなっている。自衛隊とか、上下関係が厳しいから年長者には気を遣うのかな、と考えてみた。でも見た目は30代だしな。

「同じくらいに見えますね」
「だよねぇ。別に学校の先輩でもないんだから、タメ口でいいんじゃない? 今更敬語使われたら気持ち悪いよ」
「まぁ、悪いけど、例えこんな年上でもおめぇに敬語つかいたくねぇわ」
「じゃあ最初から謝るなよ! 一瞬、小島君の敬語もいいかなぁとか思っちゃったじゃん!」
「悪ぃ。歳聞かなかったことにするわ。ああ、便所どこ?」
「玄関の廊下の手前のドア」
「借りるわ」

 隆がトイレに行っている隙に、僕はさっきの寺岡さんの質問に答えることにした。