僕を止めてください 【小説】




「…どれといわれても…どれもですかね」

 と、僕は矛先を少々濁した。あとで機会があれば隆のいないところで言おう。

「そうなんだ。でも、なにが普通の屍体と違うんだろう。裕君はなにか見えてるの?」
「はい。イメージが浮かびますね」
「それ、想像力だよね。やっぱり出来るんじゃない」
「想像…なのかな。フッと浮かぶっていうか。匂いっていうのかな。鼻で感じる匂いがするわけじゃないんですが。前にも小島さんに言ったけど、警察犬みたいな気分です。オカルトじゃないからね」

 なにか言われないように、隆に釘を差した。

「いや、お前、それがオカルトなんだよ」
「ええぇ…それも共感覚なの?」

 と、僕以外の二人が同時に発言した。

「それは…結局、ただの想像かも知れないなぁ…そのシーンから巻き戻されていくんですよね。この角度でこういうふうに死んでると。それならこんな風にベッドに寝ていて、それの前には起き上がっていて、薬の瓶を持って、しばらく考えたんだろうな、とか。自殺の場合は独りでそれがスムーズに巻き戻っていくんですが、写真集の中の殺人の場合は…はっきりとは巻き戻りませんね。曖昧です。でもなにか違う感じはわかりますが」
「物理シュミレーション・ソフトみたいだねそれって。そういうソフトは自分で値を設定するんだけど、君のシュミレーションは画像から細かい数値を読み取ってこんな風に動くとか、こんな軌道を描くとか推測するってやつかもね」
「ああ…言われてみれば…そんななのかな」
「さっきのベッドで死んでる人の例だと、シーツのシワまで測定してどんな風に寝返りをうったかとかまでそこから推測できちゃうとか?」
「似てるかも。それを瞬間でやってる気がする。でも想像ですから。一体それが本当なのか違うのか、僕にもわかりませんよ。いや、わかるんですが」
「どっちなんだよ」

 イラッとしたみたいに隆が聞くので、僕は面倒臭い説明をすることになった。

「隆がよく言うように今現在は科学的じゃないから、実際やっぱりちゃんと解剖して死因を特定して判断した上で僕の想像が合ってたんなら有効性はあると思うけど、今はわからないんで、わからないって言ったんだ。でもどっかで合ってるって思うから、わかるって言っちゃう」
「自信があるってことだよな」
「まぁ…そうですが」
「お腹すかない?」

 寺岡さんが唐突に我々の腹具合を尋ねた。