「お前らよくそうやって会話が成り立つよな。寺岡の能力を再認識しちまった。そうやって人をたぶらかすんだな、お前って」
と、変なところで隆が感心した。褒めてるんだか貶してるんだか不明。ある意味牽制だろうか。
「うん。理解されたいという欲望は人類の欲求の最大と思ってるからね。て言うか、文化人類学やってたらこれくらいの分析できないと。私、これでも新進気鋭の研究者だし」
「変態だけどな」
「そんなのばっかりだよ、教授なんて」
「知ってるわ」
「小島君は硬派な変態だもんね。私みたいな快楽主義者とは違いますもんねぇ」
「嫌味か」
「いいえ、事実ですよ、事実。おっと、話が飛んだじゃないか」
寺岡さんは僕の方を向いた。
「さてと。熱と音に敏感な裕君は、生きてるものからそれらが発せられるという感覚を積み重ね、裕君特有の概念として確立した、としよう」
まぁ、そんなものかな、と僕は思った。
「そして、なぜか、静寂に属するはずの屍体に、自殺のものだけは熱を感じることを発見した。どうかな?」
「いえ、熱を発見したのは自分自身にです。自殺の屍体は静寂に属してます」
「ああ、そうなのか。厳密なんだね、そこは」
「はい。対象と主体はここでは完全に分離されてますから」
「うわぁ…またそんな難しい言い方して。まぁいいや。その、君の言う対象には熱はないのね」
「はい。でも、僕に熱を産ませます。ほかの屍体ではそのような効果はありません」
「区別がつくんだよね、君は」
「はい。例の写真集見るまで気が付かなかったですけど」
「じゃあ、キッカケはあの写真集? それとも貸してくれた松田って人?」
「どうでしょうか。写真集だと思います。犯される前に、すでに写真集を見て、変な感じになってましたから」
「そうだったのか、お前」
「ああ、そこまで詳しく言ってませんでしたよね」
「ねぇ、どの写真が一番良かったの? 訊いたけど答えをもらうの忘れてたね」
「えっと…あの…」
縊死です。
と、言いたかったが、隆が聞いてると思うといきなりそう言うことに躊躇した。



