僕を止めてください 【小説】





「起こしたげるよ」

 彼は僕の背中に手を入れると僕の身体を起こした。関節があちこち痛かった。不思議なことに、彼に対する気持ちはあまり変わらなかった。僕をどうこうしたいその気持ちがわからなかった。でも、屍体が好きなことはわかった。唯一それが認識の変化だった。起き上がって、彼の顔を見た。笑顔が消えていた。とてもつまらなそうな顔だった。

「なぜ…殺さなかったんですか?」

 僕は突然沸き起こった疑問を口にしていた。

「えっ…? あ……あは…あっははは!」

 それを聞いて彼は意表を突かれたような顔をしたが、その後すぐ笑い出した。そして笑いながら僕にキスして言った。

「捕まっちゃうよ! 僕はまだ刑務所に行きたくないもん」
「ああ…そうですね。それは当然です」
「ほんと、変わってる、君。こんなことされて、なんでそんな冷静なの?」
「でも、ほんとは殺したいんでしょ?」

 彼の顔が一瞬固まった。図星なのかも知れない。

「あはは…わかる…?」

 彼は極力平然とそう言った。正直な人だと思った。ずっと首を絞め続けていれば、失神した後、うまく死ぬのに。そう思ったら、頭の後ろから引き込まれるような、気の遠くなるみたいな快感が襲ってきた。