「君はそう分類した、と言える。分類だけじゃないな、そこを強く印象づけて解釈されてるんだよ。無意識に」
「人よりも、ってことですか?」
「うんうん。そうそう。誰もがそこまでそれに強い意味付けをしてないでも君は過敏だからゆえに、そこを強調した。つまりそれを避けるためにだ」
「避けるために…強調?」
「うん。人は不快感を避けるために“不快”っていうタグを物事につける。で、付けたために、それを避けることができるが、逆に、付けてしまったためにそれを強調して、それに煩わされることにもなる」
「それって…忘れようと思っていると、逆に忘れられなくなる、みたいなもんですかね」
僕は佳彦の呪いを思い出して、そう訊いてみた。
「まぁ、そんなもんだ。人間の心理は矛盾しているからね。君の場合、過敏な感覚がすべて共感覚とオーバーラップしてる。だから過度にそのタグが大きいみたいね。でもさ、風邪引いて高熱が出たりしたら大変なんじゃないの?」
「いえ、あんまり風邪引かないです。それに体温低いんで、風邪引いても熱があまり出ません」
「あ、そう。じゃ、夏は?」
「あまり好きではないですね。暑いし蝉がうるさいし。やっぱり暑さと音は同じですよ。ヒーター入れてもブーンって音するじゃないですか。電子レンジもブーンっていうし。ガス台も火をつけるとゴーっていうし。お湯も湧くときに音がするじゃないですか。それでもなんか僕特殊なんですか?」
「熱と音が組み合わさってる事象を収集して共通点を原理化して、自分の感覚の合理化を図ったってわけか」
「いえ、皆んなも言ってますよ。日差しは“カーッ”って音で照りつけてるって。僕からしたらカ行じゃなくてザ行ですけどね。熱を濁音で表現しないっていうのは解せませんけど」
「ホントだ。共感覚って言語的な視点で結構普遍化されてるって言うけど、そうだね。ここも改めて認識だな」
と、寺岡さんは妙に感心した口調で僕に答えた。



