「あのね、自閉傾向ある人はね、感覚に過敏性があるんだ。特徴的に」
「感覚ですか」
「うん、そう。五感全部。音、光、触覚、温度感覚、匂い…それで、なぜか痛覚が鈍感とかね。五感も過敏じゃなくて、鈍感なこともあるんだそうでね」
「痛いのはわりと平気です」
「やっぱり? 小島君に聞いたけど、そんな痛がらないって」
「ええ」
「それで、よく裕君は自分の“熱”が嫌だって言うでしょ?」
「はい。そもそも、それが問題ですから」
「もしかしてさ、裕君は自分の体温が上がるのがすごく不快なんじゃないかな?」
「ええ、ずっとそう言ってますが。熱が嫌だって」
「もしかして…そのまんまだったのか、お前」
隆が驚いたような声で、僕に聞いた。
「はい。僕、自分の中があんなに熱くなるなんて…アレ以外経験なかったし。熱ってうるさいんです。騒音なんです」
「熱が…うるさい? 熱に音があるの?」
「ええ、熱は騒音ですよ。違うんですか?」
「裕君、それって、熱がどんどん上がると騒音もだんだん大きくなるの?」
「そうですよ。え…そうじゃないんですか? 寺岡さんは」
「ない。ないよ、熱に音ついてないよ! …もしかして…ええっ?」
ハッとしたように、寺岡さんが右手を額に当てた。そのまま寺岡さんは考え込んだ。
「そんな共感覚…あるのか…温度に音がついてるのか? 温度と音…珍しすぎる…」
「おいおい、なんだよそれ」
寺岡さんがひとりで熟考に入ってしまったので、隆がそれを引き戻した。
「あっ…ああ、ゴメン。いや…これは大変に、大変に珍しいのかもよ…」
寺岡さんは興奮を抑えながら、ゆっくりと考えながら口を開いた。



