僕を止めてください 【小説】




「なぜこういうことが必要かって言うと、君への対応を出来る限り適切に扱うためなんだよね」

 と、寺岡さんは言った。

「サポートするって言ったって、方法も限界も人によって違うからね。状況判断もしないで闇雲には出来ないでしょ。少なくとも余計なことしてこじらせたくないじゃない? 私は君の人生に責任は取れないけど、適切な対応を取りたいっていう、この状況に対しての誠意は示すつもりだから。まぁ、私にも限界はあるけど」
「はい。ありがとうございます」
「軽度の自閉傾向か…もしかして裕君、うるさい音とか嫌い?」

 寺岡さんは不意にそんな質問をしてきた。

「そうですね…静かな方が良いです。うるさい音はしないに越したことはないですね」
「なるほどね。君が生きてるものに興味がないとしてるのは、もしかしたら、音に敏感だからなのかも知れない。自閉傾向のある人は、聴覚過敏の傾向があるんだって。静かだと落ち着くんじゃない?」
「ええ。静けさは僕の大事なものですから」
「もしかして図書館が好きなのも、あそこはだいたいがどこでも静かだからなのかな」
「あぁ、それでですかね…気が付かなかったですが…そうかも知れません」
「もしかしてさ…温度は?」
「温度…?」
「熱いもの飲める?」
「いえ、猫舌です」
「冷たいものは?」
「特に。アイス食べられますよ」
「熱いお風呂好き?」
「いえ、熱いと入れませんが…」
「ああ、そう…うんうん」

 寺岡さんは何度も自分で納得するように頷いた。