「まぁ、なにが言いたいかって言うと、これって、親のせいじゃないんだよ」
「ああ、そこな」
「原因は今んとこ不明なんだけど、虐待とかしつけとか愛情不足とかが原因じゃなくて、もっと器質的な、遺伝とかさ、それこそ出産時の脳の障害とか、妊娠中の問題とかが指摘されてる。つまり、言いたかないけど、生まれつきってことなんだよね。で、さっき仮死分娩って聞いたし」
隆はそれを聞くと不快そうな顔をした。
「でもね、裕君とよくよく話してると、それがアスペルガーでもないんじゃないかって思えるんだよね。これが」
「そうなのか?」
「うん。なんかさ、小島君の例のリミットのこと心配してたときも、普通に想像して色々予測してたしね」
「そうかな。俺には裕は“想像ってあんまりしたことない”とか言ってたぞ、前に」
「多分、生きてる世界に興味がなかったからでしょ。動きとか変化があるからその先を想像しなきゃなんないけど、死んでるものにはそこまでダイナミックな挙動はないんだよね。だけど、君とか松田って人が関わったせいで、裕君は眠ってたイマジネーションを使うようになった」
「そうなのか? 裕」
「いや、自分では意識してないですが」
「聞いてりゃわかる。じゃなきゃ、なんで例のサイコパス君が、実は君を殺したかったって、言わなくてもわかったの?」
「えっと…雰囲気ですかね」
「ほら。読めるの、空気読んでるわけよ。しかも、かなりのセンサーだよこの子は。さっきのお母さんの話だって、実際言われたまんま取っても良かったんだよ、アスペルガーなら。でも、挙動不審だって感じたんでしょ? アスペルガーはそういうのを察知するのに障害があるんだって話さ。それとね、思い出してみてよ。裕君って突発的な変化にも結構平然としてるでしょ。だってさ、いきなり小島君がなにも言わないであの店に呼び出してさ、僕と会って抱かれてパニクらないなんて、アスペルガーだったらきっと考えられないって思うんだよね。まぁ、やんわり拒否はされたけど。そんなこんなで裕君は一見似てるけど、違うのかなって思うのはそういうわけだ」
「それはそうだな。俺がいきなり電話して今から会おうぜとか言っても、別に拒否んないしな」
「ま、その、拒否んない件については、それ自体が違う意味で問題だとは思うんだけどね」
そう言うと、寺岡さんは席を立ち、食卓の上のノートパソコンを持ってきた。開いて僕に向けて置いたので覗くと、そこには『メンタルチェック・ドットコム』というサイトが開いていた。



