僕を止めてください 【小説】




「まぁ、多分大多数の人は正確にはアスペルガーのことを理解してないと思うけどね」

 と、寺岡さんは隆に言った。

「学生にもそれなりにいるし、教育者としては付き合う以上、正しく把握しておく必要があるんでね。例の、ほら、精神科の元カレにレクチャーしてもらった」
「あぁ、あの先生な」

 確かに専門家だ。

「アスペルガー症候群は自閉症の一つのタイプって言われてる。でも一般にはアスペルガーは自閉症ぽくは見えないことのほうが多いね。障害があるっていうのもわからない人のほうが多いんじゃないかな。話もできるし勉強なども人並み以上ってこともある。でも、症候群って言われてるのには、特徴があるからなんだよね」
「特徴って?」
「まぁ、専門的に言うと“3つ組の障害”って言われるものでね。3つの特徴があるっていうんだけど。ひとつは他人との関係、まぁ、人付き合いって言うことだね。ふたつ目はコミュニケーション、みっつ目は想像性と創造性…ここは日本語は紛らわしいな。イメージ力とクリエイティビティのことね」
「具体的に言われねぇと分かんねぇなぁ」
「例えばさ、人付き合いではね、一人遊びしかしない、とか、周りから浮くとかね」
「ずっと図書館に行ってるとか?」
「…まぁ…そうだね」
「他には?」
「空気読まない会話とか、会話のキャッチボールが出来ない、とか、子供でも難しい言葉使うとか、自分に関心のあることを一方的に話すとか…」
「うーん」
「あと、特徴的なのは、強いこだわりとかって言われてる。特定のものにしか興味がないけど、ものすごく知識が豊富だったりとかね。それと、想像力に障害がね。もし、なになにだったら、とかいうのを想像するのが苦手。だから相手の気持を察するとかも苦手。それと、日々のパターンが大事だったりするから、予定外のことが起きるとパニックになる子も多いって」
「あー…なんだかなぁ。裕、お前…これってよ」

 隆はなんだか困ったような顔をして僕を見た。僕もアスペルガーについてはそれなりに知ってたけど、こうやって他人から説明されると、それ、僕です、と言ってもいいと思えてきた。