「私もそのことについては色々と可能性を考えてた」
寺岡さんは隆のその意見を否定せず、そんな風に続けた。
「裕の親のことか?」
「いや、裕君の精神的な興味の偏りが生まれつきか後天的なものかってことさ」
「そっちな」
「うん。そっち。だって、まだ戸籍謄本も確認してないんでしょ? そんなこと今ここで話したって…裕君の気持ちも考えてよ」
「考えてるから言ってるんだって」
「これ、繊細な問題だよ? 私達は外野。裕君が能動的に知りたいっていうならともかく。あと、私が仕切るって言ったでしょ」
「ああゴメン…まぁ、いいわ」
「小島君の気持ちもわかるけどさ。君の恋人だし。心配なのはわかってるって」
小島君の恋人…改めて他人から聞くと、なんだか変な感じだ。相思相愛じゃない恋人って成立するのかどうか。付き合ってると言われると、そうかな、と思うけど。
「私はね、最初裕君はアスペルガーなんじゃないかって思ってた。あ、気に触ったらごめんね。小島君から話を聞いて、最初はそう思ったってこと」
「いえ、別に」
「親御さんに病院に連れて行かれて、そんな診断受けたりしてないでしょ?」
「覚えてないだけかも知れませんが」
「言われたことある?」
「そう言えば、小学校の先生から言われた気がします。中学のときも同級生から言われてたかな。“岡本はアスペ”とか」
「あれま、そうだったの。で、親御さんはなんて言ってた?」
「特に、なにも」
「そうなんだ…ふーん。多分ね、担任変わるたんびに家庭訪問とかなんかで必ず言われてたと思うよ」
「親はなんにも言いませんでしたね」
「アスペルガーってよく聞くけど、実際どんななの?」
話の途中で隆が寺岡さんに尋ねた。
「一見、全く裕君ぽい子のこと」
「なんだそりゃ?」
隆が変な顔をして寺岡さんを見た。僕は、うん…そうだよな、と思った。



