僕を止めてください 【小説】




「さてと。裕君、宿題やってきた?」
「ええ、なんとか」
「ほほう…真面目な生徒だ。うちの学生連中よりよっぽど真面目だな。発表を希望」
「はい、わかりました」
「裕は言われたようにやるんだよ。真面目だからじゃねーぞ」

 隆が口を挟むと、寺岡さんは呆れたような顔で答えた。

「それもしないんだよ、今の大学生の大半は」

 僕は教授の指示に従って、レポートを始めた。

「母親に訊いたんですが、僕は仮死分娩だったそうです。母親は難産で、難産は原因不明だったそうですが、僕は呼吸もしてないし、心臓も動いてなかったって。他に、死にかけたこととか事故とかは無いようです。つまり、僕は死んで生まれてきたって言うことですね」
「へぇ! それは興味深いな」

 でも、と僕は続けた。

「変なんです。それを話した母親が」
「というと?」
「ものすごく挙動不審で、何か隠してるって言わんばかりの…なんか…動揺っていうんですか」
「ふぅん…それは気になるね」
「母親は話を切り上げて、用事があるからって自分の部屋に行っちゃったんですが、さらに質問しに母親の部屋に入ったら…なにもしてないんです。ボーッとしてベッドに腰掛けて」
「あやしいね」
「そうなんです」
「で、さ…」

 隆が腕を組んでうつむきながら、少し深刻そうな声で言った。

「俺も会ったけど、裕の母親って、ほんとの母親かなって」
「小島君、ちょっと言い過ぎ?」
「寺岡も会っただろ?」
「まぁね」
「どうだったよ。こいつのこと大事にしてるのはわかってるよ」
「うん。そうだね」
「でもさ…」
「裕君、どう思うの?」
「さあ…考えたこともなかったんで」
「だってよ…親に興味ないって、それがおかしくねぇか?」
「その原因が、実は親御さんの方にあったってこと?」
「これが生まれつきなんて…俺は認めねぇ」

 隆はそんなことを初めて言った。その顔はなにか悲しそうだった。