ピンポーンと、エントランスでオートロックを外してもらうために、隆がインターホンを押す。しばらくすると、スーッと自動ドアが開いた。エレベーターに乗り5階を押す。間もなく寺岡さんの部屋の前まで来た。ドアホンを鳴らすと、すぐに寺岡さんがドアから顔をのぞかせた。にっこり笑って、入って! と言った。
居間になっている広いLDKの白い壁に、大きな木の本棚がドーンと置いてあって、そこにはぎっしり本で埋め尽くされていた。僕は部屋に入るなり、思わずその前に立った。隆はソファに座っていた。
「君、本好きだよねぇ」
と、寺岡さんはしみじみと言った。
「ええ。本は話しかけないですし」
僕が言うと、寺岡さんは僕を肘でつついた。
「すみませんね。うるさくて」
「いえ、そういうわけでは…」
「冗談だよ。ほら、まあ、座って、コーヒーでも淹れるから」
「あ、はい」
僕が隆の隣に移動している間、寺岡さんはダイニングエリアにある食卓の上のコーヒーメーカーからサーバーを抜くと、ソファの前のテーブルに置かれた揃いの3脚のコーヒーカップに慣れた手つきで熱いコーヒーを注いだ。
「クリームとか砂糖とかいる?」
「ああ、ある? 両方くれる?」
隆が言うと、寺岡さんは一言、お子さま…とにっこり笑って呟いてフレッシュの小さいパックを数個とスティックシュガーを何本か持ってきた。
「好きなだけ使っていいよ。缶コーヒーみたいな味になるけどね」
「お前んとこのコーヒー苦いんだよ」
「フレンチだもん。当たり前じゃん。裕君は?」
「いえ、これで」
「裕君、大人ぁ」
「ちげぇよ。裕は何でもいいんだよ、な?」
「ええ」
「ふふーん」
「なんだよ、それ」
「小島君とはパリのカフェでストレートのコーヒー飲めないな。向こうはだいたいエスプレッソだし」
「へぇ、イタリアだけじゃねーんだ、エスプレッソ。俺はダメだな。濃すぎるわ、あれは」
「ま、私も毎日はエスプレッソ飲みたくないなぁ」
寺岡さんは斜め前の一人がけのソファに深々と座り、自分で淹れたコーヒーをソーサーごと手に持ち、カップを取り口をつけた。
「今日の午前中はまぁ、とりあえずなんか話そう。昼ごはん食べて一息入れたら、例の確認作業ね。いいかな? 私がここは仕切るよ」
「いいんじゃね?」
「はい。お任せします」
「じゃ、そんな感じで」
寺岡さんはそう言うと、僕を見た。



