だが、一方で僕は、先ほどの母親の動揺がどこか引っ掛かってしまっていた。なんで母親があんなに困った顔をしていたのかが不思議だった。難産の子供なんか沢山いるだろうに。それとも人に言えない理由で僕が死にかけたのか? それなら言い淀むのはわかる。それではなんで難産になったかを訊いたほうがいいかも知れない。この先の質問は宿題ではなかった。ある意味、予習に属するのかも知れなかった。
僕は自然に2階に上がっていった。いつもならそこまで興味があることじゃない。でも僕はなぜか躊躇なくそれを聞こうとしていた。2階は両親の寝室と、客間、そして僕の部屋がある。寝室から明かりが漏れているので、そこにいるんだと思った。
寝室のドアを開け、隙間から除くと、なぜか母はベッドに腰掛けてぼーっとしていた。何かしているのかと思ったが、その様子ではなかった。用事じゃなかったのだろうか? 僕はドアを開き、母の背後に立った。
「ねぇ」
「ひっ?!」
母親は飛び上がって振り向いた。僕が入っていったのをわからなかったみたいだった。
「…驚いた…なに?」
「あのさ…聞き忘れたことがあって」
「なによ…まだあるの?」
母親は驚いた顔のまま固まっていた。
「なんで難産だったの?」
「なんで…って」
「難産の原因ってあるんでしょ?」
「…私のは…原因不明…だったわよ」
「ふうん…そういうのもあるのか」
「あるでしょうよ…そりゃ…」
「わかった。驚かせてごめん」
「ノックくらい…してよね」
「うん。そうする」
なにかわからないが、あやしさだけは伝わってきた。母親はなにか隠している。聞き出すキッカケはまだないけれど。いったいなにがそうさせてるんだろうか。僕には見当もつかなかった。



