予定を合わせるために寺岡さんに夜、電話をした。ゴールデンウィーク中にしようということになり、隆には寺岡さんから連絡してもらうことになった。いくつか質問していい? と聞かれ、僕は答えていた。

「小島くんの前で例の、君を落とした…なんてったけ?」
「松田…さんですか?」
「そうだったっけ。そうその松田氏の話ってしにくくない?」
「どうでしょうか」
「まぁ、当日だと時間ももったいないから、今聞いていいかな。君と松田氏との出会いの話」
「いいですよ」
「小島くんから聞いたけど、最初は図書館で会ったんだって? 司書だったんだっけ?」
「ええ。僕のいつも通ってる図書館の司書でした。いまもいると思いますけど」
「なんで君が良かったの、彼」
「えと…借りてる本を見て、ずっと観察してたって。あと…メガネが好きだって言ってました。他はあんまり覚えてないです。気に入っちゃったって言われたけど」
「うんうん。それで…あ、何の本借りてたの?」
「その頃は…アメリカの推理小説かな。検視官ものを片っ端から読んでました。本の題名とか覚えてないですが。写真集も廃墟とか。軍艦島のとか。あと…エジプトのミイラのヴィジュアルブックとか。生贄の歴史とか…チベットの鳥葬とか…即身成仏の写真集…あと新書版ですが『腐乱のメカニズム』は面白かったです。写真がモノクロなのが残念でしたが」
「ああ、あったね。あれは農大のバイオ学部の教授が書いてたな」
「それは松田さんが僕のために入れてくれた本だったみたいです」
「そんなことしてたの?」
「僕が好きそうな本を入れて、いつ借りていくか見てるのが楽しかったって。入れたすぐ僕が見つけると“やった!”って心の中でガッツポーズしてたって言われました」
「知り合う前から?」
「はい。1、2年そんな風に見てたって」
「え…サイコパスかな彼?」
「さあ…」
「だって殺したかったんでしょ、裕君のこと」
「そうですが、自分からは絶対言いませんでしたよ。だいたい僕が先にそそのかすんで。殺したいんでしょ? って聞いたら、悪魔って言われたし。我慢してるのになんで言うんだって」
「ああ…自分でわかってんだ、彼」
「やっちゃわないように、会うのもうやめようって言われました。もう僕の前に姿を見せるなって。犯罪者にはなりたくない、って、いつも言ってたんで」
「危ないなぁ、松田さん。いつかニュースに出ちゃうかもね」

 寺岡さんはきわどいことを言った。