激しく抱かれながら、僕は安堵と戸惑いを繰り返していた。隆が退院して、あの部屋を引っ越し、新しいマンションに移って半月、初めての新しいベッドで僕の身体は隆の下に押さえ込まれている。興奮して固くなった隆のモノが僕の中にある。リミットを超えても抱けること、気持ちが続いてることを、隆はその激しさで確かめている。そしていつものように、僕の身体は半分死んでいる。嫌悪感はない。うっすらとした快感がたまに局所に届く。声が漏れるような波は来ない。ただ、抱かれている。いつものように。そう、拒む理由はない。

 行為の後、二人でシャワーを浴びた。カーテンのない浴室、トイレは別にある。首の吊れない仕様の部屋だ、と、隆は笑いながら言った。どの部屋にもドアノブはない。引き戸だけ。ドアノブも重要な吊り具になる。でももう、それはないな…お前のお陰であの絶望から逃げられたからな…と、隆は言った。

 酒もやめることになった。シャワーの後に、アルコールゼロのビール様飲料を冷蔵庫から出してきて飲んでいる。二人でベッドに腰掛けて壁にもたれていた。

 だけど、絶望から、新たな絶望へと渡って行ってしまうよ、これから。失う恐怖ではなく、報われない空虚が待っているのを隆もわかっているんじゃないのか。僕は変わらない。変わらなかったことが隆を救い、そしてまた傷つける。

 どうするの?

 いつか言わなければならないそれを今はまだ言えないでいた。

「そう言えば、寺岡との約束どうなった?」

 缶を片手に隆が僕に訊いた。そうだった。僕も救われなければならない。あの衝動から。