僕を止めてください 【小説】





「あの…お久しぶりです」

 僕は別れた時と同じような他人行儀な挨拶をした。他に言うことを思いつかなかった。隆はまだ黙ったまま固まっていた。こんな時、なにを言ったらいいんだろう、と僕もしばらく黙った。色々聞きたいことがあったはずだが、なにかに阻まれているように、なにも思いつかなかった。隆が参ったな…というように額に手を当てた。ああ、どんな感じか訊かなきゃ、と思った。

「僕も…午後から診察で…今日が高校の入学式だったんで…会いに来ました」

 どうやって切り出せばいいかまったく見当がつかない。何か質問しようと思い、僕は隆に聞いた。

「具合…どうですか?」
「え…あ…」

 わずかに隆の口から声が漏れた。そしてそのあと、大きく息をついた。息するのを思い出したみたいに。

「どう…ですか…?」

 僕を見て、どう思いますか? ほんとはそう聞きたかった。でもそれをいきなりは聞けなかった。でもなにを僕が聞いたか、聞きたいか、隆もわかっているはずだった。そのとき、一瞬隆の口が開いた。開いたあと、その顔がフッと緩んだ。

「ははっ…」

 額に手を当てたまま隆は目を閉じて、そして笑った。

「あっはは…」
「…どうか…したの?」
「ククっ…あはは」
「隆…?」

 隆は笑い続けた。僕はそれをどう解釈していいのかわからなかった。