寺岡さんは少し黙っていたが、ゆっくり口を開いた。
「…言いたいことは…わかるよ…うん…君、いろいろこの前のことから考えたんだね」
「はい。トリガーなのかなって…僕が」
「言えてるといえばそうだけどね。うーん…どうだろ。とりあえず、会ってから考えたら? 小島君けっこう君のこと心配してるからさ。たまに元気なところ見せてあげたほうがいいのかもよ。まぁ…流れ次第だけどね。あの病院カウンセリングとか精神療法のプログラムとか充実してるから、持病が治っちゃうこともあるかも知れないし。案外もう治ってるかも知れないし。どうする? 君の思惑通りにはなんないかも」
「それも考慮済みです」
「ほう」
「そしたら、小島さんに必要な人間が僕である必要が更になくなるんですが」
「まぁね」
「僕じゃなくて、小島さんを愛する人がいい」
「…君はどうなの?」
「僕は、好きかどうかわからないんです」
「まだそこか」
「それは変わりません」
「会えなくなっていいの?」
「どうでしょうか」
「彼が君以外の人間を抱いていいの?」
「さあ、そうなってみないとわかりません」
「まぁね。でも後悔するかもよ」
「後悔したら、それが好きってことですか?」
「そうかもしれないね」
「じゃあ、今わからないから、後悔する方を選びます」
「君って…勇敢というか…まぁいいや。そのときは後悔しなよ。それもまた人生だ。うん。君はまだ若いから僕はそう言える。若いから言えるんだよ。30面下げた大人には言いませんよ」
「そういうもんですか」
「そういうもんですよ。裕君。君はまだ青くて酸っぱいからね。果実は熟していくものさ。季節の試練を受けながらね。でも君はさ…」
「ええ」
「小島君のこと…大事なんだね」
大事…? 僕は意表を突かれた。



