僕を止めてください 【小説】





「それでなにか彼に用事?」

 と、寺岡さんは僕に訊いた。

「はい。高校の入学式が終わったら会おうと思ってます。小島さんの気持ちがどう変わってるか確認したくて」
「うんうん。そうなら面会に行けばいいんじゃない? 月・水・金は診察とかカウンセリングがあるっていうけど。いつ行くの?」
「4月の一週目の月曜日です。入学式なんです。午前中で終わるんで、午後から僕も予約取ってあるんです」
「あ、そっか。君も患者さんだっけね。どうなの? 具合はいいの? 夜中に失神して小島君にナースセンターに担ぎ込まれたって聞いたよ。小島君に聞いたらなんか難しい病名だったなぁ…」
「頸動脈洞過敏症候群とかって」
「絞め落とされすぎたせいじゃない? よってたかって壊されちゃったね。まだ人生これからだっていうのに」

 壊された…と聞いて、僕は少しゾクッとした。

「そう…ですか」
「他人ごとみたいに言わないの。ああ、君はそのほうが萌えるんだったっけ?」
「ええ、まぁ」
「うわ、正直だな。まぁいいけど。そうだねぇ…小島君の例のビョーキがどうなってるかだよねぇ。いや、ウツじゃない、もう一個の持病ね」
「相手が高校生になると気持ちの萎える病気のことですかね」
「単刀直入にそういうこと」
「発病してて欲しいなと思ってます」
「おや、なんで?」
「だって…僕が一緒に居るとまた死にたくさせるから」

 寺岡さんは一瞬沈黙した。僕は続けた。

「治療の妨げになると思うんです。色々な意味で」