僕を止めてください 【小説】





 入学式が終わり、その足で僕は病院に向かった。何教科かの教科書を抱えていてそれが少々重かった。そう言えばあまり重いものを持たないようにと言われていたのを思い出した。高校は自宅から電車で通う。病院にはその帰宅する路線で自宅を通り越して、2駅行ったところにあった。その駅でロッカーに教科書を入れて、バスに乗った。

 慣れない新しい制服のネクタイを少しゆるめた。ネクタイもだが、ワイシャツも襟を絞めないようにと、少しゆるいものを母が買った。濃紺のブレザーにダークグレーのスラックス、濃い臙脂色のネクタイ。ごく標準的なデザインのようだ。髪は少し伸び、度が進んで見えにくくなったメガネを授業のために春休みに新調して、母親に少し印象が大人になったと言われた。それは好都合だった。これから会いに行く人にとって、それはひとつの壁だから。

 廃墟に行ったあの日の夜に、久しぶりに僕から隆に電話をした。だが、電話は電源が切られていて掛からなかった。いつも隆からかけてくる夜中の電話も、病院で別れてから掛かっては来なかったので、まだ入院しているのかなと推察した。

 仕方がないので事情を訊こうと寺岡さんに電話した。かなり長いコールの後、寺岡さんが出た。やはり隆はまだ入院中だった。自殺未遂で入院の場合は、大抵の場合1ヶ月くらい入院して服薬し、様子を見ると寺岡さんは説明してくれた。携帯はナースセンターに没収。許可を取ればその時間だけ返してくれるらしいが、隆がそれをしなかったのだろう。どおりで電話がないはずだと思った。