僕の脳裏に『Suicidium cadavere』がよぎった。それらはほとんど決意とか願望とかいう心の意志や感情を超えていた。それはいわば狂気に近いなにかなんだ。すると狂気という言葉に合わせて、井戸の中の二人がそれに取って代わった。入水の瞬間、二人は互いに目を見開いて笑った。それはもうオーガズムと言っても過言ではなかった。狂ってるんだ…この世の熱を超えていけるのは、もうそれしかないと。

 だから僕は狂うんだ。その姿を見ただけで…

「隆…もっと…狂ってよ」
「え…?」
「それじゃ…永遠に…届かないよ…生きてる世界からは遠いんだ…熱のある人は…狂わなきゃ…辿りつけないんだよ…あそこにはさ…」

 僕の口から死人の声がとぎれとぎれに響いた。ああ…僕はまだ片足を残してる…!
 僕はまだ…あれとつながってる!

「隆…ぼくは…戻っても…いいかな…」
「裕…どうした?」
「扉…見つかった…?」

 僕はいつの間にか意識を失っていた。