「いつから気づいてたんですか? 自分でもわかってたはずだって…寺岡さん言ってた」
「さぁな。陸自で嫌な目に遭ってた頃からじゃねぇかな」
「ずいぶん前ですよね」
「でも、考えてみれば…こんなふうな気分はオヤジとおふくろが離婚してからずっとだったって気もするわ」
「高校生の?」
「だな。この気分が濃くなったり薄くなったり繰り返し…繰り返して煮詰まって…ここにいるのかな…俺は」

 小島さんは遠くを見るような目をしていた。

「まさかさ…自分の家族が壊れるなんて思ってねぇだろ。生まれた時から当たり前にそこに有ってさ…なんやかんやあっても、そんなことはどんな家でも当たり前にやっててさ…そんでそんな風に一生続いていくもんだって思うじゃね?」
「ええ」
「不倫だの離婚だのなんてドラマの中の話でよ。まさか俺の家がそんな風になるなんて…なんだか悪い夢でも見てるみてぇだったわ」

 そう言うと小島さんは窓の外に目をやった。

「俺はそんな風にならない」

 そして、小島さんはプッと噴き出した。

「笑えるよなぁ…俺はほんとにオヤジそっくりなんだわな…俺はそんな風にだけはならないって、本気で思ってたんだぜ。俺は一人の人を永遠に愛するって」

 笑いながら小島さんは宙を見上げた。

「無理だったんだ…俺にも」
「隆…」
「たったそれだけだったんだぜ…俺が望んでることは…沢山じゃねぇんだぜ…裕…ケンカしても、すれ違っても、誤解しても、それでも寝て起きればなんとかまた一緒にやっていけてさ…謝ったり、怒鳴ったりして、それでも結局壊れねぇ、普通の関係がさ…俺は…ほしか…った…それだけ…だったんだって…」

 笑っているうちに、小島さんの言葉が涙で詰まっていた。