「寺岡?…ああ…俺…小島…ああ…声…風邪じゃねぇよ」
寺岡さんはすぐに電話に出たようだった。小島さんは横になったままそれに受け応えた。
「死に損なった…ああ…あんたの心配してたこと…そう…そのまさか…やっちまったわ…吐き気が止まんねぇんだわ…ああ…いるよ…ここに…ああ…生きてる…俺…人殺しだ…」
寺岡さんが怒鳴ってる声がスピーカーから漏れてきた。なんて言ってるかはよくわからなかったが、とにかく怒鳴っているみたいだった。
「ああ…うん…わかった…悪いな…いや…その通りだ…そうだ…うん…よろしくな」
それからスマホを切った。話が終わったみたいだった。
「寺岡さんだよね、来てくれるの?」
「来るって…怒られた…まぁ…当たり前だ」
そう言うと小島さんは僕にスマホを手渡した。僕はそれを聞いて脱力した。安堵というやつだった。
「どっか、置いといてくれ」
手渡されたスマホを握りしめて、僕は小島さんに言った。
「ベッドに行く?」
「ああ…行けるかな」
小島さんはゆっくりと身体を起こし、四つん這いになった。動けるみたいで僕は安心した。咳き込みながらバスタブの縁につかまって立ち上がると、そのまま浴室の壁を伝って廊下まで歩いた。
「歩けるね」
「なんとかな」
僕も小島さんについて立ち上がろうとしたが、またふらついて廊下の壁に肩をぶつけて床に倒れた。その音で小島さんが振り向いた。
「裕!」
「大丈夫…立たないほうがよかったみたい」
「お前、さっきスマホ取りに行けただろ?」
「這ってった」
「大丈夫かおい!」
「先行って下さい。這って行けます」



