違う…それは僕のせいだ。そんな苦しんじゃダメだ。僕は小島さんの拳を掴んで、自分の髪の毛を引きちぎろうとする指を引き剥がそうとした。死神は、僕なんだ。
「ええ…ええ! いいじゃないですか! それは僕が叶えてほしいことなんだから! いいじゃないですか! 隆のせいじゃない! 隆は悪くなんかない! 僕のせいだ…全部僕のせいなんだ!」
「そんなこと…あるかよ…俺は人殺しだ…俺はやっちゃいけないことをやっちまったんだよ!」
「違う! 隆、違う! 違う!違うんだ!違うんだってば!」
僕はどうしていいかわからなくなって、小島さんの背中に抱きついていた。
「救急車ダメだったら誰か呼んだほうがいいの? 誰か来てくれそうな人いるの? 僕だと、隆とどんな関係だとか訊かれたら説明出来ない。どうすればいい?」
「病院には…行けねぇよ」
「ダメだよ。お願い…病院に行こうよ…首の神経とか骨とか靭帯とか…やられちゃうんだよ…僕のほうが…詳しいんだよ。隆だって僕が手首切って病院行けって言ったでしょ? あれより隆のほうが重症だよ。事故だって言えば保険だって利くよ。だから行こう」
「裕…お前なんで…ウゲェ…ゲホッ…ゲホッ」
言ってるうちに泣けてきた。吐き気も止まらないのに病院に行ってくれない小島さんをどうすればいいのかわからなくなった。僕は背中にすがったままわんわん泣いた。しばらくすると、不意に僕の頭に温かいものが触った。小島さんの手だった。
「スマホ…持って来い…コートのポケットん中…」
その言葉を聞いて、僕は夢中で部屋に向かった。廊下で立とうとしてふらついてひっくり返った。そのまま四つん這いで部屋に行き、床に落ちているコートをつかんだ。小島さんの頑丈なスマホがポケットから出てきた。転がるようにして小島さんのところに戻り、スマホを手渡すと、小島さんは電話を掛けた。
電話の相手は寺岡さんだった。



