(死神だな、お前は…)
耳の中で消せない音が響いた。奪っていく大事なもの…それがなにかはわからない。でもなにか僕は小島さんからそれを奪ってしまったのではないだろうか。佳彦はそうなる前に僕を遠ざけた。佳彦は自分本位だったからそれが出来た。でも小島さんは…
優しいから。助けを求めた僕を支えた。それは、しちゃいけなかったんだ。巻き込んだんだ。僕は佳彦と別れた時に、小島さんに電話してはいけなかったんだ。
これ以上、僕が小島さんと居てはいけない。僕が誘惑したんだ。死の世界に、少しづつ。僕は自分がどういう存在なのか、こんな風に意識したことはなかった。ではこれからどうすればいい? 小島さんとこれから友達で居続ける約束をしたまま僕がここに存在していいのだろうか?
しかし、いまは小島さんがどういう状態なのかわからない。どこをどれくらい損傷しているのか、病院に言ったほうがいいのか。そう、僕が手首を切った時みたいに。小島さんが手当しろと言ってくれたみたいに、僕は現実的にいまここで吐き気が止まらずに起き上がることも出来ない小島さんをどうしたらいいかを考えなければならなかった。
「隆…救急車呼ぼうか?」
「いや…やめてくれ…このまま時間が経てばどうにかなる」
「だって、起き上がれないじゃないですか」
「ああ…まぁな」
そう言うと小島さんはゆっくりと両手で頭を抱えた。
「だって俺…お前を殺そうと…した…お前のこと…ほんとに…」
頭を抱えた指が自分の髪の毛を掴んで握りしめていた。固めた拳が震えるほど。
「許されない…俺は…俺はァァァァァ!!」
最後は叫び声に変わっていた。



