僕を止めてください 【小説】




「隆…どうしたの…隆…」
「あ…ウェェ…」

 小島さんは僕の声に気づいたように、ちらっとこっちを見たが、すぐにトイレに顔を戻した。僕はカーテンを手で引っ張り、小島さんの身体から剥がした。

「ゆ…裕…」

 便器に顔を埋めたままほとんどかすれてて声になってないが、僕の名前を呼んだ。

「どうしたんですか…なにがあったんですか?」

 僕は四つん這いのまま浴室の高い敷居を半身だけ跨ぎ、小島さんの足を掴んだ。すると小島さんはそのまま腰を落とし、上半身をひねって浴室の壁に一気にもたれた。苦しそうに口を半開きにしてハアハア喘ぎながら、小島さんは僕の方に倒れ掛かってきた。横向きに床に転がった小島さんの背中を僕はさすっていた。

「生きてたか…ごめんな…ゲホッ」
「どうしたんですか…」
「はは…棒が落ちやがった…クソっ…吐き気が止まんねぇ」
「あれって? カーテンの?」

 ふと見ると、小島さんの喉にはぐるっと一周赤い線がついていた。

「隆…もしかして…そこから…吊ったの…?」
「ああ…ウゲェッ」

 小島さんは自分の口を片手で押さえて苦しそうに何度もえづいた。