僕を止めてください 【小説】




 ぼーっと、いつの間にか僕は天井を眺めていた。気がついたことに気がついていなかった。意識が朦朧としていて、夢の中のように、なにがなんだかよくわからなかった。どこからか水の音がする。雨かな……ここは…どこだろう…。スーッと眠りに入っていくような感じが何度も繰り返した。波の中で揺られているようだった。

 しばらくして、僕は我に返った。ここ…小島さんちだった。僕はここに来て…押し倒されて…首を絞められて…あれ…隆は…?

 やっとの思いで首を動かした。左右に首を倒し、あたりを見回した。だがベッドの上に小島さんの姿は見えなかった。どこ行っちゃったんだろう。そう言えば意識が飛ぶ直前に、小島さんがなにか呟いてたような気がした。なんて言ってたんだっけ…とても気になることを言ってた気がした。意識がはっきりしない。なんだったんだろう…気になる…

(俺も…すぐいく…)

 急に僕の頭の中に、その声が再生された。それって、どういうことだろう。それって? え…あ…それってもしかして…

「隆…隆!」

 自分でも声になってたのかどうかわからない。叫んだつもりだった。ベッドから下りようとしたが身体が上手く動かない。布団にしがみつき、仰向けの身体を俯せて、そのままもう一度回転するとベッドから落ちた。

「痛…」

 床に這いつくばって目を挙げると、廊下のドアが開いていた。水がザアザア流れる音がして、咳き込む音が聞こえた。小島さんの声だった。立ち上がれなくて四つん這いで声のする方に這って行くと、ユニットバスの戸が開いていて、ゲェゲェ吐く音が聞こえた。

「隆…隆…」

 呼びかけても声が小さいのか返事がない。ようやく扉の前に来た。敷居に手を掛けて中を見ると、ユニットバスのカーテンのレールが片方落ち、カーテンが掴めるところまで床を覆っていた。カーテンが動いている。

「ゲホッ…ゲェェ…」

 カーテンの下に半分隠れて、トイレを抱きかかえ、顔を突っ込んでゲェゲェしてる小島さんがそこにいた。