僕を止めてください 【小説】




 会ってみれば、最後というには普通の小島さんだった。ただ、目の下に濃いクマが出来てて、あんまり寝てないのかも知れなかった。

「もう入学手続き済んだのか?」
「ああ、はい。振込も終わったんで、あとはオリエンテーションです」
「卒業式とか入学式とか…忙しくなるな」
「ええ。でも問題はその後です」
「そうだな」
「約束守って下さいね。寺山さんの件」
「はいはい。寺岡な、裕」
「あっ…寺岡さん。山じゃない、岡でした」
「田んぼより近くなってるけど…あはは」
「そうです。質問があります」

 小島さんはチラッと僕を見た。

「最近質問が多くなったな。いいこった」
「いいですか?」
「疑問もないのは良くねぇだろ」
「そうなんですか」
「前は、なんでも言ったようにしかやんねぇし、言われたらそのまんま受け取って、なんにも訊かなかったからな。進歩だぞ。この世に興味が湧いてきたか?」
「この世っていうか、小島さんのことなんで」

 それを聞くと、小島さんから不意に笑顔が消えた。

「…俺のことなんか、いいじゃねぇか」
「友達のこと、聞きたいんです」
「え?」
「この前電話で聞いた、友達が友達じゃなくなった話」
「えぇぇ…マジかよ…お前…」
「ダメですか?」
「きっついな、それ。冷や汗出てくるわ…マジで。運転中はマジでやめろ」

 ハンドルを抱えている。車体が左右にフッとブレた。事故りそうな感じがした。

「すみません。ダメそうですね」
「ああ…ダメだな。いつか話せたら、な」