僕を止めてください 【小説】




「いた、ということは過去形ですね」
「ああ。過去形」
「なんで過去形なんですか?」
「…好きになっちまったから」
「難しいですね。だって友達も好きなんでしょ?」
「その好きとは違う」
「じゃあ、どんな好きなんですか?」
「…心も身体も欲しいかどうかってこと」
「じゃあ、身体抜きなら友達で、身体ごとなら…恋人ですか?」
「…そんなもんかな」
「小島さんは、リミット超えると心も萎えますか?」
「え…」
「勃たないから、もう好きじゃなくなるんですか?」
「さあ…な」
「勃ったら、心も好きになるんですか?」
「…かもな」
「勃起って大事なんですね」

 それを聞いて小島さんはプッと噴いた。

「俺はバカか」
「いえ、そういうことじゃないです」
「はは…なんかどうでもよくなったわ」

 小島さんはまた笑った。

「友達か。俺は友情も失くしてたんだっけか。いま思い出した」
「いろいろ失くしてますね」
「ああ。サヨナラだけが人生だっていうわ」
「いままでは、ですか」
「お…言ってくれんじゃん。偉そうに!」
「事実です。可能性は精査するべきです」
「お前って後ろ向きなのか前向きなのかわからねぇな。死にたがりのくせに」
「死はゴールですから、僕にとって。元は可能性じゃなくてそのものだったんですけどね。今は迷走中です。いえ、帰る過程です。目的に到達するにはどんな可能性も重要です。しかし、こんなに再現性に乏しい意識状態だったとは…生まれつきっていうのは努力で勝ち取ったものでないからしょうがないんですかね。僕の力不足なんでしょうけどね。死力を尽くさねば」
「いや、裕、その“死力”の使い方間違ってんぞ」
「突っ込むのそこじゃないですよ」
「ツッコミどころが多すぎるわ」

 小島さん細かいな。その言葉好きなんだけど…。

「じゃあ、もう寝ます。待ち合わせはいつもの場所でいいですか?」
「ああ、着いたら電話するわ。じゃあな…おやすみ」

 失くした友情について、また質問しよう、と僕は電話を切った後に思った。